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空の旅と放射線

放射線と飛行機でのご旅行

レントゲンやタリウムスキャンなどに代表される診断画像技術などの医療用放射線、原子力発電所からの廃棄物、核兵器実験による放射性降下物、パイプラインやタンク用の産業X線撮影など、様々な種類の放射線が私たちの健康に与える影響について大きな関心が寄せられています。また、携帯電話や電線による影響も注目を浴びています。近年の航空機利用の増加にともない、最近こうした議論に加わってきたのが宇宙放射線です。次のQ&A形式でのご説明は、推測ではなく事実を伝えることを趣旨とし、放射線一般、とりわけ宇宙放射線について関心がある方には役立つものと思われます。

放射線とは何ですか?

放射線とは、エネルギーが粒子または波動として空間ないしは媒介物質を通して放出・伝播されたものと定義されています。放射線にはいくつかの種類がありますが、一般的にはイオン化・非イオン化、電磁気・微粒子に分類されます。

イオン化放射線と非イオン化放射線の違いは何ですか?

基本的な違いは持っているエネルギーの違いにあります。非イオン化放射線(電波、レーダー、可視光線等)は物質を通り抜けるときに原子から電子をはじき出すほどの強いエネルギーを持ってはいません。イオン化放射線はそうしたエネルギーを持っています。

イオン化放射線にはいくつかの種類があるのですか?

はい、あります。イオン化放射線は電磁気であり、微粒子です。電磁放射線は光の速度で波の形で進みます。ガンマ線のように波長が短いものは生命体に特に有害です。微粒子放射線は様々なタイプの粒子 ―アルファ粒子、ベータ粒子、陽子、中性子など― から成っています。

イオン化放射線は生命体にどのような影響を及ぼすのですか?

イオン化放射線の生物的影響の第一に挙げられるのがエネルギーの吸収であり、それによって原子から電子が奪われます。これはほぼ瞬時に起こり、細胞の化学的損傷が続いて起こります。時には、DNAの損傷にいたることもあります。染色体、膜組織、リソソームのような細胞の構成物が数秒から数時間の間に損傷されることがあります。

細胞、組織、生物体全体への生物的損傷は数時間で起きる場合もあれば、数年かかる場合もあります。これには、瞬時に起こる細胞の死、細胞分解能力の低下、突然変異、癌への変異などが含まれることがあります。

イオン化放射線はどのように測定するのですか?

イオン化放射線の測定には様々な器具が使われます。一般的に、微粒子放射線の測定器具は、電磁放射線の測定に使うもの(例えば、携帯カウンターとか病院のレントゲン技師が身につける小さなフィルムのバッジ)よりも複雑で、サイズが大きく、重量があります。

放射線の数量化単位はいろいろありますが、健康に対する影響について主に使われるのが線量当量です。この単位は生物システムと作用して影響を与える様々な放射線の違いを考慮に入れています。一般的に、微粒子放射線は電磁放射線よりも生物システムに大きな損傷を与えます。単位はシーベルト(Sv)ですが、これは非常に大きい単位なので、ミリシーベルト(mSv)やマイクロシーベルト(µSv)が通常使われます。それぞれ、シーベルトの1000分の1と1,000,000分の1に相当します。

イオン化放射線によって癌になる危険性はどのくらい高くなるのですか?

放射線に起因する癌を考える場合、自然発生の癌が多いことを思い出す必要があります。先進国では、1,000,000人につき230,000人(5人に1人以上)が自然に発生する癌で死亡しています。

国際放射線防護委員会(ICRP)では、1mSvの被曝ごとに1,000,000人あたり12.5人分死亡率が引き上げられると推測しています。つまり、もし、1,000,000人が2mSvの放射性物質を浴びた場合、それが原因の癌による死亡率の上昇分は25人、つまり1,000,000人あたり230,025人となります(自然に発生する癌で死亡する230,000人+ 25人)。

どのレベルのイオン化放射線なら安全ですか?

防護すべき放射線による悪影響には二つのタイプがあり、どのレベルなら安全かというような単純な問題ではありません。大量の線量(チェルノブイリで消火に当たった人々に見られたようなもの)は必然的に危害を引き起こします。骨髄や内臓に障害を与えるこうした影響は決定論として知られており、線量当量がある限度値を超えない限り現われません。

癌や突然変異のような影響は放射線の線量当量が高くても低くてもランダムに発生しますが、これは確率論的影響として知られています。発生の確率は線量に比例しますが、それ以下なら確率がゼロであると明言できる限度値はありません。

まったく障害を起こさないと証明できる放射線レベルはないという事実は、国際放射線防護委員会(ICRP)が以下の勧告を行っていることからもわかります。つまり、(1)純便益が得られる可能性が無い限り、放射線がからむ診療をすべきではない、(2)そのような治療に伴う被曝は社会的・経済的要因を考慮に入れ、合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである(ALARA原則)。

イオン化放射線の被曝を完全に避けることはできますか?

残念ながらできません。多くの人は、歯などの治療のために何度かX線を受けるでしょうし、核兵器実験から発生した放射性降下物による放射線がまだ少量存在しています。このような人工の放射線源が無いとしても、私たちは自然から発生する放射線を浴びています。地球上の岩石や土は様々な量のウラニウムやトリウムのような自然の放射性元素を含んでいます。例えば、イギリスではコーンウォールやアバディーン周辺は特に自然の放射線元素が多いと言われています。放射性物質は植物の中に取り込まれ、その後動物に食べられ、結果的に多くの食料品には測定可能な量の放射能が含まれることになります。自然に発生するカーボン14アイソトープによって、さらに食料品中の放射能が増え、宇宙放射線の一部も海面まで到達します。

このように、イオン化放射線を完全に避けることはまったく不可能です。自然発生する放射線は年間、約2mSvと言われています。

人が浴びる放射線の量には限度がありますか?

国際放射線防護委員会(ICRP)が、全身放射線被曝についていくつかの勧告限度値を設定しています。

一般人、つまり仕事上で放射線と接触することの無い人々については、勧告限度値は年間1mSvです。仕事で放射線と接触する必要がある人については20mSvと設定されています。年間線量が6mSvを超える可能性のある作業者は、「放射線作業者」として区分されなければなりません。放射線作業者については定期的な測定及びモニターが必要とされ、定期的な医療検査が求められます。

妊娠している作業者は特例となります。放射線が胎児に障害を与える可能性があるため、妊娠が告知された後、出産までの線量限度値は1mSvまでに制限されます。

なお、上記の限度値には予想される自然発生放射線を加えてあることを強調しておきます。

宇宙放射線とは何ですか?

宇宙放射線は地球の外で自然に発生するイオン化放射線を言います。これは二つの構成物から成り、太陽から届く太陽放射線と太陽系の外から来る銀河放射線です。主に、陽子、中性子、アルファ粒子などの粒子から成り立っており、これらの粒子が地球の大気圏で原子と相互作用を起こすと二次放射線が作り出されます。銀河放射線はエネルギーが大きいため、宇宙放射線の大きな部分を構成しています。

太陽周期とは何ですか?また、それが宇宙放射線にどのような影響を与えるのですか?

太陽の活動は11年周期で変化します。太陽放射線が最も強いとき、それに関連した磁場が銀河放射線の一部を地球からそらせます。宇宙放射線の大部分を占めるのは銀河放射線であるため、太陽活動が活発なときは宇宙放射線全体の強度は低くなります。太陽活動が活発でないときは、反対のことが起こります。

例外もあります。太陽活動が活発な時期に時折発生するフレア活動期中です。フレアは太陽の表面で磁気嵐によって生じ、宇宙を高速で移動する高レベルの荷電粒子の噴火を引き起こします。それがたまたま地球に当たった場合、宇宙放射線線量が短期間(数時間から数日の間)、大きく増加することがあります。

宇宙放射線はどこでも同じなのですか?

そうではありません。高エネルギー粒子は地表に向かって移動するとき、大気中の原子と衝突しますが、衝突するごとにエネルギーの半分を失います。つまり、高度が高くなるほど宇宙放射線の値は増加します。例えば、デンバーでの平均年間放射線線量はニューヨークに比べると約2倍です。粒子の多くは荷電しているため、地球の磁場は北極と南極のほうに流れる傾向があります。北緯・南緯60度以上はあまり変化が無いように見えるものの、緯度が高くなるにつれ、放射線は強くなります。

宇宙放射線被曝についての規制はないのですか?

あります。欧州閣僚理事会は「EURATOM(ヨーロッパ原子力共同体)指令」として知られている指令を採択しました。その指令によると、航空乗務員の宇宙放射線被曝を査定・制限し、その情報を航空乗務員に伝えることが義務づけられています。

香港民間航空局は香港の航空産業を対象に、行政・航空会社・組合と共に宇宙放射線についての作業委員会を設立しました。委員会は2002年9月にEURATOM指令を採択しましたが、キャセイパシフィック航空はそれに先立ち2002年4月頃にはその主要なものを採用しています。

宇宙放射線被曝の査定に関してEURATOMは何を要求していますか?

EURATOMは、49,000フィート以上の高度で運航可能な航空機は能動的放射線モニターを装備することを求めています。キャセイパシフィック航空は現在、このタイプの航空機を保有していません。

26,000から49,000フィートで運航する航空機の場合(キャセイパシフィック航空の保有機材はすべてこれに当てはまります)、EURATOMは乗務員に対する線量をコンピュータープログラムを使った予測により査定するよう求めています。年間線量6mSv以下と計算された場合は、それ以上の作業は必要ありませんが、年間線量が4mSvを超える可能性がある場合、コンピュータープログラムによる被曝モニターを行い、6mSvを超えないよう監視する必要があります。キャセイパシフィック航空は乗務員の浴びる放射線が勧告被曝線量を超えないよう内部で対策チームを設けています。妊娠している航空乗務員については特例が設けられています。妊娠が告知された場合の最高線量当量は妊娠期間中は1mSvとなります。なお、上記の限度値には予想される自然発生放射線を加えてあることを強調しておきます。

なぜ乗務員は線量計を身につけていないのですか?

多くの放射線作業者が身につけている種類の線量計は微粒子放射線には適していません。宇宙放射線検出器として最も適切なものは組織等価比例計数管(TEPC)ですが、サイズが大きく、重量も重いので、身につけることは不可能です。

線量計算にはどんなコンピュータープログラムが使われているのですか?

アメリカ合衆国連邦航空局のために開発されたCARIシリーズのプログラムが通常使われます。このシリーズの最新プログラムはCARI 6です。欧州連合は現在、EPCARDと呼ばれるプログラムを使っています。フランス政府機関はSIEVERTと呼ばれるプログラムを開発しました。

CARI-6プログラムはもっとも幅広く使用されており、キャセイパシフィック航空もこれを使用しています。

CARI-6は次のウェブサイトからダウンロードできます。www.faa.gov/education_research/research/med_humanfacs/aeromedical/radiobiology/
cari6/download/index.cfm

乗客はどのくらいの線量を浴びているのですか?

これも当然、飛行ルート、高度、太陽活動によって異なります。ビジネス旅行者の場合、雇用主は必要と感じたならば、被曝の度合いを査定し、それに従ってビジネス旅行を計画する必要があります。頻繁にレジャーで旅行をする人については、年間の線量を記録することが推奨されています。このウェブサイトには、キャセイパシフィック航空の飛行区間に関するフライト・プロフィールが掲載されています。任意の旅行について自分の線量を計算するには、CARI-6コンピュータープログラムをダウンロードし、フライト・プロフィールに関するセクションから情報を入力してください。

CARI-6は次のウェブサイトからダウンロードできます。
www.faa.gov/education_research/research/med_humanfacs/aeromedical/radiobiology/
cari6/download/index.cfm

乗客に癌が発生する危険性は容認できないほど高いのですか?

飛行機による旅行にはイオン化放射線被曝の増加が伴いますし、イオン化放射線被曝は癌発生のリスクを高くしますので、結論としては若干危険性が高くなるかもしれません。しかしながら、リスクの増加は極めて小さく、いずれにしても、多くの先進国では自然発生による癌の死亡率が全体の23%を占めていることを考えると、リスクは低いと言えます。

例えば、20年間2週間ごとに香港とニューヨークを直行便で往復する人は、癌で死ぬ危険性は23%から23.11%~23.14%に上がります。これは通常に比べ、約0.5%の増加に相当しますが、受容できない数値と考える人は少ないでしょう。

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